私は過去割と転々と住む場所を変えている。
実家からアパート、団地、販売所に住み込み、そして今一軒家に住んでいる。
いろんな形態での生活を経験して思うのは、部屋の大きさや住居のある場所の便利さなど、結局住んでしまえば気にならないということだ。
では何が気になるか。
これが”隣人”である。
人間にとって永遠に解決できない最大の問題は、人間なのだ。
どんな場所であろうが、隣人に変な人間が居るとものすごくストレスである。
都会では隣との距離が近いし、田舎ではコミュニティが狭い。
どこへ行っても結局逃れられないのが隣人との人間関係であると思う。
そんな中、一軒家を買うというのもかなりの博打だと思うのだが、マンションはもっともっとリスクが高いと思う。
となりにどんな家族が住むか分かったものでは無い。
隣だけでは無い、上の住人がうるさい、下の住人がクレーマーだ、同じ階の自治会の会長さんが口うるさい、近くの部屋にゴミ部屋にしてしまう人が居て虫が発生する、エレベーターに犬におしっこをさせてしまう飼い主が居る、入居する前に知らなかったマンション内の会議や清掃がしょっちゅうあって面倒、予想できるが予防しようのないトラブルが無数に考えられる。
これは別に想像の翼を羽ばたかせて突飛な絵空事を並べ立てているわけではなく、全て新聞配達をしている中で目の当たりにしたか、そういう話を聞いたかした内容ばかりである。
私一人が見聞きしただけでこれだけ挙げられるのだから、世の中にはこういうトラブルは無数に存在するのだろう。
いろんなマンションを回っていると、いろんな光景を見た。
若い奥さんが自治会の取り決めなのだろう、掃除に出席しなかったおやじの部屋まで行って、扉越しに罰金を請求しているのだが、話の通じないおやじはわめき散らして取り合おうとしない。
ある部屋はゴミを溜めることで配達員の間でも有名で、ドアの横手にある換気扇からは、えも言われぬ刺激臭が放出されて、そのフロア全体を臭くしていた。
ゴキブリの小さいのがいつも扉の周りをちょろちょろとしているのにぞっとしながら、ドアポストに新聞を突っ込んだりしていた。
あるマンションではある日エレベーターに乗った瞬間ものすごいアンモニア臭がして飛び出した。
犬がおしっこをしたのだろう、それから数日はそのエレベーターは乗れないくらい強烈な匂いがこびりついていた。
マンション運営に関わる様々のことを住民が集会場に集まって会議している。
役員の番など回ってきたらいろいろと面倒なことをさせられるだろうし、自分が納めた積立費がまったく自分の意向に沿わない使われ方をするのも癪に触るが、払わないわけにもいかない。
ポストにいたずらをする者がある、夜中に騒ぐ者がある。
人が集まれば集まるほど、必ずいざこざは増えるだろう。
ちょっと高級めのマンションを買えば住民の民度もよくなるだろうと思いきや、ゴミ溜めのような部屋は無くなるかもしれないが、小綺麗なマンションでも意地の悪い人間というのには嫌というほど仕事上出くわす。
やはりお金をたくさん手に入れられる人間というのは、それなりにがめつく無いと競争に遅れをとるだろう。
ちょっとでも気に入らないことは大きな声でいちいち口に出して通るまで主張できる厚かましさがある。
そういう人がたまたま近くに住んでいるというだけで、生活の質は著しく低下する上、その人がそこに住む権利は揺るぎなく在るわけであるから、永遠に不可抗力である。
配達をしていると、そういうことをぼんやり考えていたりする。
ということをぼんやり思い出していた。
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